「親なきあと」とは、親が亡くなったり、支援できなくなったあとに、障害のある子どもがひとりで生きていく未来のことです。「うちの子はまだ若いし大丈夫」「まだ自分も元気だから準備は先でいい」と思いがちですが、予期せぬ事故や病気などにより、親が突然子の支援をできなくなる事態は、誰にでも起こりえます。
本記事では、障害のある子どもを持つ親が「今からできる5つの準備」を5回シリーズで具体的に解説します。渡部伸氏の著作を参考に、制度面と実践面の両方からステップを紹介します。
Step1:現状を見える化する
「親なきあと」の準備は、“情報の整理”から始まります。最初にやるべきは、「わが子の今」と「自分自身の支援状況や体力・生活状態」を客観的に可視化することです。これは難しいことではなく、紙とペンで簡単に始められる作業です。
🔶 見える化するべき3つの項目
① わが子の障害区分や日常生活の自立度
• 障害者手帳の種別と等級(身体・知的・精神/1~6級など)
• 障害福祉サービスの利用状況(通所・訪問・就労支援など)
• 生活上できること・できないこと(例:着替え、食事、金銭管理など)
📝【具体化例】
・知的障害者手帳B2級、週3回通所B型作業所を利用 ・食事や着替えは自立、金銭管理と通院は家族が対応
② 誰が支援しているか
• 食事・排泄・入浴・移動の介助は誰がしている?
• 通院同行、契約・行政手続きは誰が担当?
• 本人が困ったときに最初に頼るのは誰?
📝【具体化例】
・日中の支援は母親、通院と役所対応は父親 ・兄弟は支援に関与していない
③ お金の出入り(家計)
• 本人の収入(障害年金、手当、作業所工賃など)
• 支出(食費、日用品、通院交通費、趣味、通信費など)
• 現在の家計の不足額 or 余剰金(年間でいくら?)
📝【具体化例】
・障害基礎年金 月6万6千円+工賃 月5千円 ・支出は月8万円(親が2万円補填)
🔷 可視化すると分かる「意外と多い親の支援」
この作業をしてみると、多くの親御さんが「想像以上に自分がやっていることが多い」と気づきます。
• 本人は自立していると思っていたが、実際は通院・金銭管理・契約行為を親が全部やっていた
• 収入はあるが、支出管理はしておらず、赤字になっている
🔍 この「自分たちで抱えすぎていた」現実を見える化することが、次のステップ(代替案や支援策の検討)につながります。
📌 参考ツール:見える化シートテンプレート
項目 内容記入例
障害区分 知的障害B2級
サービス利用 就労継続支援B型(週3日)
日常生活 食事・移動は可、通院・金銭は不可
支援している人 父(手続き)、母(生活)、兄弟(未関与)
年間収入 約85万円(年金+工賃)
年間支出 約96万円(約月8万円)
補填金額 年間約11万円(親が支援)
👉 こうしたフォーマットを使うと、専門職への相談もしやすくなります。
🔍 参考データ・資料(出典リンクあり)
- 障害者の生活実態調査(厚労省)
o 障害者白書(令和5年版)
o 生活状況・支援者の年齢構成・居住形態などが記載されています。 - 知的障害者の同居率:約78.9%が親と同居
o 出典:荒川区「知的障害者実態調査報告書(2011年)」
o https://www.city.arakawa.tokyo.jp/a011/kosodate/shogai/joho/chitekichousa.html - 障害のある人の経済実態と支出調査(きょうされん)
o 調査報告(PDF)
o 生活費の赤字構造や年金・手当の不足状況が詳しくまとめられています。
💬 最後に
“見える化”は、専門家や支援機関に頼る第一歩でもあります。親が全てを抱えるのではなく、「いま、何が必要か」「今後、誰にお願いするか」を考える土台になります。
次回は「ステップ2:同じ立場の親の声を知る」に進みます。
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